家族ケアにおける心理的距離とリフレクティブ・ライティングの研究
家族ケア提供者47名を対象に、LINEチャットボットを用いた3週間のフィールド調査を実施しました。ケア対象者や出来事との時間的・空間的・社会的な「心理的距離」が、内省的な筆記の内容や効果にどう影響するのかを分析し、感情表出を促す「近接モード」と客観的内省を促す「遠隔モード」という2つの内省スタイルを明らかにしました。

概要
家族ケア(育児・介護)に伴うストレスに対して、筆記開示や内省日記などの「セラピューティック・ライティング」は有効な手法として知られています。しかし、家族ケア提供者はケア対象者のそばにいる時間が長く、感情的にもケア対象者と一体化しやすいため、いつ・どのような状況で内省を行うのが効果的なのかはこれまで十分に検討されてきませんでした。
本研究では、心理学の Construal Level Theory(解釈レベル理論) に基づき、ケア提供者と対象者や出来事との間の 時間的・空間的・社会的な「心理的距離」 が、内省的な筆記の内容や効果にどのように影響するのかを検証しました。LINE上で動作するチャットボットを開発し、家族ケア提供者47名を対象に3週間のフィールド調査を実施。毎日のストレスレベルの記録と内省的な筆記、そしてそのときの状況(ケア対象者との物理的な距離や、誰がケアを担っていたかなど)を収集しました。
分析の結果、ケア対象者や出来事に 心理的に近い状態 で書かれた内省は、感情豊かでケア対象者を主語にした詳細な語りになる傾向がある一方、心理的に距離がある状態 で書かれた内省は、より落ち着いた、自分自身を主語にした分析的な語りになる傾向があることがわかりました。私たちはこれを、感情の解放を伴う 「Mode P(Proximal、近接モード)」 と、客観的な内省を伴う 「Mode D(Distal、遠隔モード)」 という2つの内省スタイルとして整理しました。
参加者へのインタビューからは、近接した状態では出来事の記憶が鮮明である一方、距離をとることで感情が落ち着き客観視できるという トレードオフ が語られました。本研究は、こうした心理的距離を考慮しながら介入のタイミングや文脈を調整する、「距離を考慮したJust-in-Time Adaptive Intervention(JITAI)」 という新しいデザインの方向性を提案するものです。
使用技術・手法
成果・実績
- 家族ケア提供者47名を対象に3週間のフィールド調査を実施し、958件の内省データを収集
- 心理的距離(時間的・空間的・社会的)が内省の内容や視点に有意な影響を与えることを定量的に確認
- 感情解放を伴う「Mode P」と客観的内省を伴う「Mode D」という2つの内省モードを提案
- ACM IMWUT(UbiComp '26)に論文が採択
関連論文
“Two Modes of Reflection: How Temporal, Spatial, and Social Distances Affect Reflective Writing in Family Caregiving”
Shunpei Norihama, Yuka Iwane, Jo Takezawa, Simo Hosio, Mari Hirano, Naomi Yamashita, Koji Yatani.
掲載予定 · ACM IMWUT (UbiComp '26) (2026年9月)